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短編小説『息子の彼女』

  • 執筆者の写真: スマイル・エンジェル
    スマイル・エンジェル
  • 2020年5月3日
  • 読了時間: 17分

更新日:2020年5月5日


【あらすじ】

45歳のパート主婦の主人公は、夫と高校2年の長男と中学3年生の長女の為に、日々節約をする良妻賢母。長男に学校一番の美少女の彼女ができて、家に遊びに来る事になる。長男の彼女は、愛情に溢れる家族団らんにふれて喜んで帰っていく。主人公も、息子の優しい振る舞いに家族である事の幸せを感じる。

本文文字数:9419


いけてない息子の彼女は、学校一番の美少女

私は、パジャマ姿のまま洗面台に立ち、鏡の電気のスイッチを押すと、明るさで一瞬クラッとするが、鏡に映った自分の顔に少し微笑んで「おはよう~」と声をかける。そして、歯磨きをし、顔を洗い、タオルで顔を拭いた時に、その異変に気が付いた。

「あれ?」と洗面台に置かれた【モンダミン】を手に取り、「なんか随分と減ってない?」と呟く。

私が、手に取った【モンダミン】は買ってきて、まだ、3日しか経っていないのにもう、半分は減っている。

だって、これを毎日使うのは、私と、中学3年生の娘と、たまにダンナだけよね。なんでだろう…と思いつつも、そのまま【モンダミン】を元に戻した。

私は、スエットにTシャツの部屋着に着替えてエプロンを付けながら、リビングの壁に駆けられた時計の針が5時を指すのをチラッと確認して、勢いよくカーテンを開ける。

キッチンの戸棚に置かれた、炊飯器から、『ごはんが焚けました。ご飯をほぐしてください』と機械的な女性の声が響く。

窓を開けて、ベランダに出ると東の空が、少しずつ明るくなっている。

私は、鼻から思い切り空気を吸い込む。五月晴れというが、今日も、洗濯日より、ご機嫌そうな空模様に心が弾む。

横長に3畳ほどはあるベランダには、プランターごとに植えられている家庭菜園の万能ネギ、ベビーリーフ、ミニトマト、オクラ、ラディッシュ、シソ、バジルが生き生きと実っている。最近はじめたゴーヤーも、ツルを伸ばしてきている。

私が住むこのマンションは、長男が3歳、長女が1歳で引っ越して、その時、すでに築20年は経っていた。中古でもしっかりとした作りと、5階の最上階にして角部屋でしかも、南向き、そして、私が一番気に入ったのは、このベランダだ。

小さい頃、団地住まいだった私は、広いベランダのある部屋にずっと憧れていた。

また、東京の下町ではあるが、都心に出るには便利な駅から歩いて10分程度の立地条件で、その当時住んでいたアパートの家賃に2万円の上乗せした月々の返済でしかも、25年のローンで買えた超お買得の目玉物件だった。

そう、私は、節子との名前の通リ、節約をしながらも身の丈にあった快適な生活を送りたいと願う、45歳のパート主婦。

家族が、毎日、健康で安くておいしくごはんが食べられるようにとの思いからこの家庭菜園をはじめた。

そして、いつも家族が、快適で、ご機嫌で暮らせるようにと日々、心がけている。自分で言うのはも、はばかるけど自称、良妻賢母です。

これも、10年前にガンで亡くなった母の格言である「いつもご機嫌さんでいること。その為に大切な事は、①笑顔を絶やさず②素直に生き③感謝を忘れずに」と言われてきたを忠実に実行している。

母は、妹と私を女手一つで、何不自由なく育ててくれた、愛情深い、世界一尊敬する、私の、理想の女性像となっている。

 朝ご飯とお弁当の献立を思い浮かべながら、万能ネギとミニトマト、ラディッシュ、ベビーリーフをボウルに入れていく。

 キッチンは、私の、この部屋で唯一、納得のいかない場所だ。冷蔵庫と細めの食器棚を置くと大人が二人入ると一杯になるスペースで、部屋の真ん中にあるからか、換気用の窓も無く、私は、ここを【暗室】と呼んでいる。学生の時にアルバイトをしていた新聞社に写真を現像する小さな小部屋の【暗室】を想起するからだ。

水回りの設計上、ここにキッチンを作らざるをえなかったにしても、この設計者の身勝手さに怒りを覚える。しかし、そこは私一人が我慢すれば済むと思い、このマンションを購入した。だけど、実際は、主婦として、毎日、何度もここに立ち、愛する家族においしい食事を提供しなければならない。ご機嫌さんでお料理を作る為にも、インテリア雑誌やおしゃれと評判な雑貨店を参考にして、ヨーロッパのアパルトマンのキッチンをイメージした使いやすく快適なキッチンに仕立てている。

私は、ダンナと高校2年の長男のお弁当のおかずを作り更に、朝食用の味噌汁を作り、冷蔵庫の野菜コーナーから、大きめの保存容器に入ったぬか床に漬ったキュウリとダイコンを取り出す。

すると、ダンナさんの富雄が、ワイシャツに背広のズボンを履き、新聞を持ってキッチンに顔を覗かせて、「おはよう。今晩、取引先の接待があるから、晩御飯いらないから」と。

富雄は、私より、3つ年上の印刷会社の営業をするサラリーマン。

暗室のあった新聞社でアルバイトをしていた20歳の時に知り合ってからのお付き合いだ。お互い様だけど、知り合った頃のマッチョで精悍なラガーマン風の体から一転して、今は、メタボ系のお腹に毎月染めないといられなくなった寂しくなった髪の毛の富雄。

私は「あんまり、飲みすぎないでね――」と、刻んだ万能ねぎをと納豆をまぜながら、キッチンから出て。

「ねぇ。洗面所にある、【モンダミン】使った?」と聞いてみる。

ダイニングテーブルには、焼き魚を主食とした和食がすでに並んでいる。

イスに座って新聞を読んでいた富雄は、

「いや~最近、使ってないな。なんで?」と私を見る。

納豆をかき混ぜながら「そうだよね~。なんか減りが早いなと思ってさ」

「優香が、こぼしたんじゃないのか」とまた新聞に目を通す富雄さん。

「かもね」と私が言うと、メガメをかけた制服姿の長男の航が入って来て、

「おはよう。お母さん、僕、あと15分で出るから」

私は、思わず時計を見て「あと15分っていつもより、30分も早いじゃない。

じゃあ、急いでご飯食べて」と、慌ててキッチンに戻る。

航は、電車で30分の所にある公立高校に通っている。身長175センチで体重は55キロと私達、夫婦の遺伝子とは似つかず、痩せ気味だ。

妹の中学3年生になる優香にいつも『航!』と呼び捨てにされても、また、『航って、モヤシみたいで、イケテナイ男子だよね』と面と向かって悪口を言われても、決して怒らない、優しい子だ。

よく周りから、航が弟で、優香が姉と、間違えられるほど、見た目にもおっとりした気弱な印象だ。

航が、キッチンに顔を出して「あと放課後、学校に残るから、マフィン2個持って行く」

「えっ?なんで?」とよそった味噌汁を航に渡す。

航は、私の顔を見ず「ちょっと、残って勉強するから」と、味噌汁を受け取る。

「ふ~ん。そうなんだ。勉強するんだ」と、じっと航を見つめる。

航は、私の視線を気にしつつ、そそくさと、ダイニングテーブルに座り、ご飯を食べ始める。

航が、私の顔を見ない時は、秘密ごとがあったり、ウソをついている時だ。

言われた通リに、冷凍庫の中にある、手のひら大の大きなブルーベリのマフィンを2個取り出しながら「ブルーベリー2個でいいの?」と大きな声で、航に聞いてみると、

「1個は、チョコにして」と航の声が返ってくる。

私は?と思うが、言われた通リ、冷凍してあるブルーベリーとチョコのマフィンとお弁当を航に渡す。

そして、玄関で、航を見送ると、やっとパジャマ姿の優香が自分の部屋から出て来て「航。今日は、早いじゃん」と閉まった玄関のドアに向かって言う。

「そうなのよね。なんかね~」と私は、釈然としない気持ちのまま、

「優香も早く支度してね」とリビングへと戻る。

富雄が、食事を終えてお茶を飲みながら、テレビの天気予報を見ている。

私は、ほとんど減っていない納豆を見て「あれ~航。今日は、納豆食べなかったんだ」

富雄は、納豆が嫌いだから、うちでは、私と、航しか納豆を食べない。

「そうだな、今日は食べなかったな」と富雄は、天気予報の『お帰りの遅くなる方は、傘を忘れずに』との女性アナウンサーのコメントに気を取られている。

気にするでもない様子の富雄に「航、今日、なんか、おかしいわぁ~」と言うと、

まだ、パジャマ姿の優香がリビングに入って来て「航が、どうしたの?」

優香に「航がね…」と今朝の航の様子を私が、伝えると、

優香が、手でぬか漬けのきゅうりを摘み「航。彼女ができたらしいよ」

私と富雄さんが同時に大声で「え~!航に彼女!?」

「うん」と言い、さらにぬか漬けのきゅうりを食べる優香。

「ちょ、ちょっと優香。それ本当なの?航に彼女って!え~―!?。」

富雄は「おっと、時間だ。優香、その話、パパにもちゃんと教えてくれよな。

今晩、遅くなるから、ラインしてくれてもいいぞ」と言い、慌てて出て行く。

優香の話によると、航と同級生で同じ高校に行った女子の先輩が、昨日、優香の部活に遊びに来て、航が同じ学年のしかも、学校一番の美少女と付き合っていると噂になっていると教えてくれたらしい。

あの航に彼女が、しかも、学校一番の美少女と!ありえない!頭の中がパニックになり、「だって、わ、わ、わ――。~×▽〇~、」と自分でも、何をどう言っていいか分からず意味不明のゼスチャーをしていると。

「あの、もやしのイケテナイ男子の航にね。――美少女ともやし?」と鼻で笑う優香に。

「ちょっと、優香。そんな言い方ないでしょ。そりゃね。航は、見た目は、イケテナイ男子かもしれないけど、性格は、優しくて、とってもいい奴なのよ」

「知ってるし」と優香。

「え!?」

「私も、航は、いい奴って思っているよ」

「そうでしょ!ママにとっては。航も優香も世界一、ううん宇宙一の可愛い~宝物なんだから」

「はい、はい。~あ~親バカが始まった」としらけた様子で洗面所へと行く。

私も、優香の後に続いて洗面所に行き「ねぇ~。そのモンダミンこぼした?」

鏡越しに優香が「私が?」

「そう。ずいぶん減ってるからさ」

「航が使っているからでしょ」

「航が?え~そうなの?」

「彼女ができたから、気にしてんじゃないの」と歯磨きをしながら優香が答える。

そうか。だから、今朝も、好物の納豆を食べなかったんだと合点がいった。

航に彼女――。

私は、嬉しいのか、悲しいのか、自分でもよくわからない複雑な気持ちになり、じっと、モンダミンを見つめた。

そして、私は、優香を学校に送り出し、洗面所で簡単なメークを済ませ、自宅から自転車で10分の所にある大型スーパー店へと向かった。

調理服に着替えた私は、バックヤードの調理室で、手際良くコロッケを揚げる。今年で、6年目になる、このパートは、朝9時から、2時まで立ちっぱなしで、少々体力的にキツイけど、元々調理は好きだし、新商品の開発には意見を取り入れてくれ、時には内緒で半端な食材やその日のお惣菜を少し分けてくれるので、結構気に入っている。

私は、揚がったコロッケを、店内の総菜コーナーの【本日のお勧め!】と書かれたホップの前に並べる。総菜コーナーは、お昼のお弁当を選んでいるサラリーマンや、主婦たちで賑わっている。

私は「北海道男爵コロッケ、揚げたてです!」と言いながら、また、バックヤードへと戻ると、同じ、調理場で働く10歳年上の真澄さんが近づいて来て、

「昨日の節ちゃんのブログ、参考になるわ~。拭き掃除で運を呼ぶってね~。早速、今日、帰ったらやってみるわね」とまん丸の顔にクリンとした目を更に大きくして言う。

私は、毎日の生活をインターネットで『節子さんのご機嫌生活』というタイトルでブログを投稿している。フォロワーも300人を超えてきた。

真澄さんが言う拭き掃除で運を呼ぶとは、フォロワーさんからの情報で、部屋の床や壁など器具を使わずに、雑巾で拭き掃除をすると、幸運が訪れると言うのだ。私も、この情報から、拭き掃除を試み、この効果かはわからないけど、昨日は、富雄さんのお母さんから、30キロのお米が届いた。これは、節約主婦としては、かなり嬉しい。過去には、普段滅多に食べられない、高級牛肉や毛ガニ、旬の果物などがインターネットの懸賞で当ったりした。

食べ物ばかりではなく、同じマンションに住む住人が海外に転勤になるからと、新品の冷蔵庫と電子レンジを頂いた事もあった。

恐るべし、拭き掃除効果と私は、思っている。

 それから、一週間後、私は、航の学校に進路の面談に行った。

面談を終えて、下駄箱で靴を履き替えていた私に、

「あの。航君のお母さんですよね」と後ろから言われて、振り向くと、

一人の女子学生が立っていた。

テレビが主催する国民的美少女コンテストに今目の前にいる、女子学生が出場したら、間違いなく優勝するであろうと思うほどの美しさに、

私は、思わず見惚れて「きれい…」と呟いた。

それくらい女子学生からは、外見の美しさもさることながら、人を魅了する強烈なオーラがある。

「航君のお母さんですよね」と女子学生は、もう一度、遠慮気味に言う。

「はい。そうですけど」

女子学生は、笑顔になり「はじめまして。鴻巣美玲と申します」と言い、コクリとお辞儀をする。

私は、この美しすぎる女子学生を前にして、心臓の鼓動が更に激しくなり、

「わ、航の母です」と自分でも驚くほど素っ頓狂な声で答えて軽く会釈をした。

少し、お話しをと言う美玲さんの申し出で、私と、美玲さんは駅まで一緒に帰ることにした。並んで歩いて行くと、通リすぎる人が、私の顔と美玲さんの顔を見比べて、あれっとした表情になる。きっと、親子にしては、似てないと思われているようだ。

美玲さんのような美少女と並んで歩いている自分に、少し優越感を感じながら、美しい横顔をそっと盗み見する。

「航くんには、いつも、親切にしてもらっているんです」

「は、はぁ~」と先ほどから、冴えない返事しかできない自分に腹が立つ。

そして、私は、ひらめいた!

私は、その場に立ち止まり、「もしかして、チョコマフィン!?」と、また、素っ頓狂で、大きな声で言う。

美玲さんは、驚き、立ち止まり「チョコマフィン?」

「そう!チョコマフィンとブルベーリーマフィンがあったら、どちらを選ぶかしら?」

美玲さんが遠慮ぎみに「チョコマフィン…」

「そうよね~やっぱりね~」と私は、確信した。

「あの…」と不安な表情の美玲さん。

「あ、違っていたらごめんなさい。この間、航が、放課後食べるって、チョコマフィンとブルーベリーマフィンを持って行ったのね。航は、チョコは嫌いなのに、おかしいなって、思ったのね。美玲さんの分だったのかな~って」

美玲さんは、また、笑顔になり「お礼が遅くなりましたが、ごちそうさまでした。あのチョコマフィン、すっごく美味しかったです」

「やっぱり、そうだったのね」

「航君のお母さん、本当に、お料理がお上手なんですね!」

「ありがとう。作るのが好きなのと、節約を兼ねてね。だから、何でも、手作りしちゃうのよね」

「素敵です!今度、お宅に伺ってもいいですか?私、お料理全くダメなんで、教えてください!」

「いつでもどうぞ」

「嬉しい!じゃあ、今週の日曜日に伺ってもいいですか!」

「いいですよ~」

「お母さん。ブログやってらっしゃいますよね?」

「ええ」

「お母さんは、お料理が上手で、キレイ付きで、そして、いつもご機嫌さんだって」

「航。そんな事、言ってんの?」

「航君、ハッキリとは言わないですけど、私、ブログを読んでそう感じました」

「それは、どうも」

「ブログを読んでいて航君のご家族ってすごく素敵だな~って思いました。だから、絶対に航君のお母さんやご家族に会ってみたいって。それに、航君を見ていたら、あ~この人は、家族にとても愛されているんだなって」

「そうね~」

「とても、うらやましいです」

「でも、どこのご家族も一緒じゃない。美玲さんのご両親だって、そうよ」

一瞬、美玲さんの表情が雲って「うちは…」

私は、美玲さんの寂しそうな様子に話題を変えるべく、

「自分の息子を褒めてもらって、嬉しいけど、美玲さんみたいな美人さんとうちの航が、その、なんていうかね」

「お母さん。私、航君の事、心から本当に好きなんです!私から、付き合って欲しいって、言ったんです」

「はぁ~。そ、そうなの」

「私との交際、認めて頂けますか?」

「認めるもなにもね。そんな、まだ、高校2年生だしね。これから、まだ、長い人生ね、色々あるしね」

「私、本当に真剣なんです!よろしくお願いします」と深く頭を下げる美玲。

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

私は、その日の晩に、寝室で寝支度を整えた富雄さんに、美玲さんとのやり取りを一部始終話した。

聞き終えた富雄さんは「学校一番の美少女に航がそんに慕われてな。正直親としては、嬉しいな」

「私は、母親だから、うちの子一番っていつも思っているけど。他人様にあそこまで素直に褒めてもらえると舞い上がっちゃうわ」

「航は、俺に似て、優しいからな」

「自分で言う?あら、私の遺伝子も入っているんですけど」

「そうですよ。俺たち、2人の最高傑作だもんな」

私は美玲さんの美しさを思い出して「ほら、美女と野獣って物語があるじゃない。優香が言うようにさ、美玲さんと航が並ぶとさ、美女とモヤシ?って感じ」

「おい、君が航をそんな風に言うなよ」

「だって、本当に美玲さんって、メッチャ可愛い?ううん。美しいのよね」

「そうか、今週の日曜日か。楽しみだな」 

その日は、朝から大騒ぎだった。航の彼女の美玲さんが、初めて我が家に遊びに来ると。

富雄さんは、前日にお小遣いから奮発して、美容院に行き、カットとカラーリングをして、リビングのワックスがけまでやってくれた。

優香も珍しく自分の部屋を片付け、洗面台を陣取り、髪を編み込みをしている。以外にも、航は、浮足立つこともなく、いつもと変わらずと私には、思えた。

そして、私は、学校で美玲さんに出会ってから、不思議な高揚感に包まれていた。美玲さんが、あそこまで航を思ってくれている事が、今まで子供たちへ全身全霊で注いできた愛情を認めてもらえた嬉しさだった。

航が、美玲さんを駅まで迎えに行ってる間に、富雄さんは、洗面所でこっそりとモンダミンを使っているのを、私は、目撃した。

玄関で私と富雄さん優香で美玲さんを出迎へた。

玄関に立つ美玲さんは、肩までの髪をふんわりとカールして、やわらかい素材の白いブラウスに薄いブルーのフレアスカートを着て爽やかで清楚な美しさを放っている。

横で恥ずかしそうにしている航と美玲さんのツーショットを初めて見たが、親の欲目ではないが、そんなに釣り合わないでもないなと思える。

美玲さんに初めて出会った富雄さんは、大人気なく明らかに狼狽している。

優香は「ヤバイ。ありえないんだけど」と小声で呟いた。

私は、二人のリアクションに笑顔で応えた。

部屋に入った美玲さんは、まず、私の一番のお気に入りの場所のベランダを見たいと言うので案内をする。

私のブログを見ていて興味を持ってくれているようだ。

「わ~すごいですね!沢山実っている。これは、何ですか?」と美玲さんは、野菜の一つ一つを尋ねてくる。私の、答えに、驚いたり、関心したりと素直なリアクションが美玲さんの好感を更に上げた。

お昼ご飯は、前日から仕込んだ生地で焼いたピザと、グラタンと家庭菜園の野菜をふんだんに使ったサラダを用意した。食後のデザートに手作りのババロアと美玲さんが、焼いてきてくれたクッキーを出した。

クッキーは、美玲さん曰く「初めて作ったので、美味しいかどうか…」と言う通リ、見た目は、少し不格好で焼きにむらがあったりはしたけど、一生懸命さが伝わる味だった。

その後、全員でトランプをしたり、小さい時の航や優香のビデオ映像を見て、楽しいひと時を過ごした。

富雄さんも、オヤジギャグを連発して、優香からのダメ出しを連発されている。

また、優香と美玲さんも、すぐに仲良くなり、二人で優香の部屋で何やら女子トークをしている。

この日、何よりも驚いたのが、航の美玲さんへのさりげない気遣いぶりだった。

美玲さんが、航をあんなにも、慕ってくれる気持ちが理解できるほど、航の優しさと思いやりに充ち溢れた振る舞いに胸が熱くなった。

夕飯は、富雄さんが、自ら進んで【もんじゃ焼き】を作るという。富雄さんの18番で子供達も大好きなメニューだ。私は、遅くなったら美玲さんのご家族が心配するかと躊躇したが、航が家まで送る事になった。

慣れた手つきで、富雄さんがもんじゃ焼きを作り、初めて食べると言う美玲さんに、航が食べ方を伝授してあげる。

また、楽しく賑やかな夕飯となった。

もんじゃ焼きもなくなり、鉄板に残ったおこげを富雄さんが削っていると突然、美玲さんが、泣き出した。

私達家族の視線は、美玲さんに集中し。

「あ、すいません。これ、嬉し涙なんです」と少し笑顔で美玲さんが言う。

優香が、そっと差し出したティッシュを美玲さんが受け取り、涙を拭い「私が小学5年生の時に母が家を出て行きました。それから、祖母と父と3人で暮らしているんです。私、一人っ子だし、父も仕事が忙しくて、食事はいつも祖母と2人なんです。こうして、賑やかな家族団らんって、家にはないんです。だから、感動しちゃって」

富雄さんが「また、いつでも遊びに来てよ」

「今度、一緒にケーキ作ろうよ」と優香が言う。

「ありがとうございます。本当に今日は、とても楽しかったです」と満面の笑顔の美玲さん。

玄関で帰る支度をしている美玲さんを送ろうとして、靴を履きかけた航に私は「小声で、モンダミンした?」と咄嗟に小声で聞く。

航も、はっとなり、急いで、洗面所に走って行く。そばで見ていた優香が状況を察知して、クスリと笑う。全く状況が分からない富雄さんは、ひたすら、美玲さんに笑顔で対応している。

私も、美玲さんに「また、いつでも遊びに来てね」と笑顔で。

急いで戻って来た航からは、モンダミンの微かな香りが漂う。

航が、少し、照れながら、「じゃあ、ちょっと送ってくるから」と言い、

美玲さんと航が玄関から出ていく。

2人を見送った優香が「でもさ~。美玲さん、一体、航のどこがいいの?」

「そうだな。お父さんも、ビックリしたよ。航にあんな可愛い彼女ができたなんてな」

「そうね―。でも、今日、二人を見てて、お母さんは、なるほどなって、思ったな」

「全然わかんないし~」と優香が、不満そうに言う。

「まだ、わかんなくてもいいよ」と私は、優香に微笑む。

洗い物や部屋の片づけを終えて、私は、一人ベランダの椅子に座り、缶ビールを飲んでいる。

夜空には、8分くらいの丸いお月様がぼんやりとした光を放っている。

お風呂から上がった、富雄さんは、パジャマ姿で、首にかけたタオルで汗を拭きながら、缶ビールを持って来て、「お疲れ様」と私に向ける。

「富雄さんも、張り切りすぎて、疲れたでしょう」

「ああ、疲れた。けど、心地いい疲れだ。いい子だな。美玲さん」

「そうね。見た目のきれいさもだけど、素直で心もきれいな子ね」

「ああ、そうだな」

富雄さんと夜空を仰ぎながら、ビールを飲んでいると、

美玲を送った航が、ベランダに顔を出し、「今日は、ありがとう。彼女とても喜んでいたよ」

私は「そう。良かったね」と笑顔で応える。

行こうとした航に、富雄さんが「おい、航。お母さんに今日“も”ありがとう。だろ」

航は、少し照れながら「はい。今日も、ありがとうございます」

私も少し照れて「はい。どう致しまして」

「風呂、入るね」と航が行く。

私と富雄さんは、また、黙って夜空を見上げながら、缶ビールを飲む。

私は、この家族でいられる幸せをほろ酔い気分で満喫している。

航の薄暗い部屋の勉強机の上に置かれた新品の1080mlのモンダミンにハートの形のメモで【母の気持ち】と書いてありリボンがつけられている。

                               おわり

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